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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2239号 判決 1983年2月24日

控訴人

ヘルシー寝装株式会社

右代表者

中根一義

右訴訟代理人支配人

小崎市蔵

被控訴人

三井物産株式会社

右代表者

八尋俊邦

右訴訟代理人

柏木薫

松浦康治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一横浜地方裁判所横須賀支部は、債権者・被控訴人、債務者・控訴人間の同庁昭和五五年(ヨ)第三九号動産仮処分申請事件につき、昭和五五年四月二二日「債務者・控訴人の原判決別紙物件目録記載の物件に対する占有を解いて、横浜地方裁判所横須賀支部執行官に保管を命ずる。執行官は、その保管に係ることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。」との仮処分決定をし、被控訴人が同日その執行をしたことは当事者間に争いがない。

被控訴人は昭和五四年五月一七日控訴人から本件物件につき債権担保のためその所有権の譲渡を受けたものであり、それがいわゆる清算型の譲渡担保であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、被控訴人は右仮処分申請事件において、その被保全権利として、右譲渡担保権に基づく清算のため引渡請求権の存在を主張したことが認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、横浜地方裁判所横須賀支部は控訴会社代表者の申立てにより、昭和五六年三月九日控訴人に対し商法に基づく会社整理開始の命令をし、同命令は同年同月一八日確定したことが認められる(同裁判所が右整理開始の命令をし、それが確定したことは当事者間に争いがない。)。

二そこで、右整理開始命令の確定が、本件仮処分決定を取消すべき事情の変更に当るか否かの点について検討する。

1  商法上の整理開始の命令があつた場合及びその命令が確定した場合の効果について、商法三八三条二項は、「整理開始ノ命令アリタルトキハ破産若ハ和議ノ申立又ハ会社財産ニ対スル強制執行、仮差押、仮処分若ハ企業担保権ノ実行ヲ為スコトヲ得ズ。破産手続、和議手続並ニ既ニ為シタル強制執行、仮差押、仮処分及企業担保ノ実行手続ハ之ヲ中止ス」と定め、同法同条三項は、「整理開始ノ命令ガ確定シタルトキハ前二項ノ規定ニ依リテ中止シタル手続ハ整理ノ開始ニ於テハ其ノ効力ヲ失フ」と定めるのに対し、同法三八四条は、「整理開始ノ命令アリタル場合ニ於テ債権者ノ一般ノ利益ニ適応シ且競売申立人ニ不当ノ損害ヲ及ボスノ虞ナキモノト認ムルトキハ裁判所ハ相当ノ期間ヲ定メ担保権ノ実行トシテ競売ノ手続ノ中止ヲ命ズルコトヲ得」と定めているところからすると、整理開始の命令があつても、担保権の実行としての競売手続は直接の影響を受けることがなく、ただ裁判所は右三八四条に定める要件を具備するときに限り、その手続の中止を命じるにすぎないものというべく、したがつて、右三八三条二項に定める「仮処分」という概念の中には担保権の実行保全のための仮処分を含まないと解するのが相当である。また、裁判所は右担保権の実行としての競売手続の中止を命ずることができるにすぎず、右競売手続が中止されても、担保権の存在そのものは、整理手続によつて何ら実体法的な影響を受けることはない。そして、譲渡担保権は右商法三八四条にいう担保権に類似するものというべきであるから、会社整理の場合には譲渡担保権の取扱いについては同条を類推適用するのが相当である。

2  控訴人は(イ)会社更生法上、譲渡担保を更生担保権とするのが最近の通説判例であつて、目的物に対する取戻権が否定され、この考えは整理開始にも準用されるべきであり、また、(ロ)商法三八三条は企業担保権の実行を失効させるが、譲渡担保権は企業担保権に類似するから、これを準用すべきであると主張するが、当裁判所はいずれもこれを消極に解するものであり、その理由は原判決の理由欄の記載(原判決四丁裏四行目冒頭から五丁裏一〇行目末尾まで。但し、五丁裏三行目の「(同法」から同五行目末尾の「がない。)」までを除く。)と同一であるから、これを引用する。

3  これを本件についてみるに、前示のとおり本件仮処分決定は本件物件についての譲渡担保権を被保全権利とするものであるから、本件整理開始命令及びその確定により別段の影響を受けるものではなく、したがつて本件整理開始命令及びその確定があつたからといつて直ちに本件仮処分決定につき事情の変更があつたとして、これを取消すべき理由とすることはできないというべきである。

三そうすると、本件仮処分決定の取消を求める控訴人の本件申立ては理由がなく、棄却すべきであるから、これと同旨の原決定は相当であり、本件控訴は理由がない。

よつて、民訴法三八四条により本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(岡垣學 磯部喬 大塚一郎)

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